四畳神話体系【覚え書き】

縁があって十二日間を湖のキャンプ場で過ごした。あてがわれたのは4畳のバンガローだった。俺の主な仕事はボートとカヌーの貸し出し。状況に応じて雑用。


起床は5時。これは日が昇る時間。

6時に朝食。ひとつ2円の卵は割る時に中身が飛び出す。

9時にお茶。毎日変わるお茶受けが嬉しい。

12時に昼食。アナログテレビで甲子園を見ながら。まだあったのか。

17時に夕食。もう一踏ん張り。

18時に売店の締め作業。仕事終わり。

18時半に風呂。汗を洗い落とす。

19時くらいからスマホをいじる。事務所が圏外だから、湖畔まで行って石に座って溜まったラインや何やらの返信に勤しむ。

就寝は21時。これは眠くなる時間。


だいたいこんな感じの過ごし方を10日間。以下、色々羅列。


・怖そうな人

カヌー借りに来た怖そうな人が「ツレ連れてくるんでちょっと待っててください」と言ってきた。どんな人を連れてくるんだろうなと思ってたらすげえ大事そうに犬抱えて戻って来た。犬、めっちゃしっかりライフジャケット着込んでた。すげえ嬉しそうに「これ(カヌー)ならコイツと一緒に楽しめるかなって!」つってた。すげえ嬉しそうだった。


・天気

神様がバケツを蹴っ飛ばしたような雨が降ったと思ったら5分後には太陽が照る。その1分後には横殴りの大雨になる。

少量の雨だと空は暗くなるが、大量の雨では空が白くなるため却って明るくなる。視界は白に染まる。湖の対岸は見えなくなった。しかし、空気中の塵やゴミは全て落とされたのだ。その後、陽が顔をのぞかせた際の景色は圧巻だった。澄んだ空気とクリアな視界によって、どこまでも見えた。1分の間も。

雨が上がる時には鳥が鳴く。少しの晴れ間で蝉は啼く。

雨でも子供は元気に泳ぐ。むしろ晴天よりよっぽど楽しそうに泳ぐ。雨を厭がる生物って人間だけだ。ここではそれもない。

ここにいると「雨かよ・・・チッ」とはならずに「今日雨だな」で済む。それ以上でもそれ以下でもない。今日出来ることをやって過ごせばいい。


・湯呑みバグ

食後にあっつーいお茶が出るんだけど俺の湯呑みだけ異常に薄くて毎回火傷してた。


・適正

どこにいても誰といても「そこそこ上手くやる」くらいのことはできる。

だからこそ、合わせる相手が『自然』の生活はとても楽だった。本当の意味で自分が自然になれる相手だ。これ以上の相手はいない。


・車のサイズがおかしいヤンキー

チマっとした可愛い車からクッソいかつい男2人出てきて何かと思った。


・地獄

久しぶりに体調を崩した。昼夜の寒暖差にやられたのだと思う。

台風が直撃した夜だった。傘は早々に諦めて風だか雨だかがゴチャ混ぜの中、自動販売機にスポーツドリンクを買いに行った。

部屋に戻って厚着をして布団に潜る。熱は身体に流して下げればいいから、とにかく汗を流すことに専念する。

天井との距離が近いため、壁に打ち付ける雨風が太鼓のような轟音で四畳を揺らす。寝られないと人は余計なことを考える。

家で体調を崩しても必ず誰かが看病してくれていたことを思って無性に泣きたくなった。『看てくれる』っていう行為に意味があったんですね。一人が辛いのなんて久しぶりだ。

目が覚めて、自分が寝ていたことに気づく。それと同時にまた寝なければならないことへ絶望する。一縷の望みをかけて時計を見る。21:13。クソが。

30分かけて30分の眠りを得る。感覚的にはこんな比率だった。覚えているだけで10回これを繰り返した。

眠れないからくだらない思考が頭に入り込む。空にも波があることを知った。強くなる予兆が音でわかるようになる。雨降ってる時に車乗るとタイヤが水を撥ねて「…シャァァァアアアッ!」って音出るじゃん?あれと全く同じ音が聞こえた。自分が轢かれるタイミングで激しい雨に襲われる。発見者俺。

今までで一番長い夜だった。トイレも野外だから行けない。ここが地獄だと本気で思った。そんな10時間。


・馬鹿

人種出自肌の色年齢いろんな人が来る。ある20代男性のことが印象に残っている。

髪がチリチリの彼は奥さんと一緒に氷を買いに来た。ロックアイスと板氷の二種類があるのだが、決めかねて相談している。「えっw板氷とかあるwwウケるww」「えーでも板氷抱えたらアガんね?ww」「確かに!じゃあ板氷にしよw」

板氷の方が”アガる”という驚きの理由で彼らはロックアイスより50円高い板氷を買っていった。

俺「350円でーす」男「はい350円ちょうど!あざます!!」

平野さん(78歳)「袋に詰めるかい?」男「お、マジすか⁉︎あじゃーす!!」

あじゃーす。嫌いではない。


・雲

手の届く位置にある雲が遥か上空まで千切れることなく続いていた。


スペイン語ポルトガル語

数え方が同じらしい。あと英語圏の人よりスペ語ポル語圏の人の方が日本語上手い。「僕たちアルゼンチンから来たんすよw」とか普通に喋られてビビった。


・掃除と換気

体調崩した次の日に部屋の掃除をした。あと小屋を締め切ってるから匂いと湿気がとんでもないことになっていた。2時間くらいドアと窓開けっ放しにした。

その日の夜はめちゃくちゃよく寝た。普段からスリープ・クオリティ(睡眠の質)の追求はしているが、換気と部屋の掃除って大前提なのだと再確認。お母さんいつもありがとうございます。


・外国人の一服

17時くらいにビール買いに来た外国人に「ドレガ、オイシイデスカ?」って聞かれた。飲めんよ。

「コレモ、オネガイシマス」って言われてチー鱈とかビーフジャーキーかと思ったら柿ピーだった。2袋も。

あとで気になって見にいったらパラソルの下ですげー美味そうに柿ピーバリボリ食べてた。妙にしっくり来る光景で不思議だった。


・漁師とギャンブル

伊勢海老を届けてくれた漁師のお客さんと、たまたま点いていたテレビのせいで競馬の話になった。曰く「ギャンブルは絶対にやらない」らしい。理由を尋ねたら「親父に『海で勝負するならそんなことで運を使うな』って言われたんすよ〜。実際ギャンブルやめてから漁獲量上がりましたね〜」とのこと。格好良い。伊勢海老クッソ美味かった。


・コーヒー

日が昇る前の肌寒い空気の中で湖を眺めながら飲むコーヒーは美味いし、暮れゆく日を眺めながら今日1日を振り返って疲れと達成感とをまとめて飲み干すコーヒーも旨い。f:id:Miyabi717:20190819210144j:image
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長くて短い10日間だった。