AI美空ひばりが怖かった。

先ほど紅白歌合戦で『AI美空ひばり』なるものを見た。美空ひばりの没後30年の催しとして、AIによって再現された美空ひばりの「新曲」を披露するという試みだ。

極めて再現度が高かった。違和感は不気味の谷へと置いてきたようだ。

『死者を蘇らせる』試みは人類の悲願である。しかし、凄腕の医者や錬金術を以ってしても成就することはなかった。まるで見えない妨害があるかのように。それを便宜上「倫理」と呼ぶのだろう。

SFの設定でAIの学習による死者の”再現”』はありふれたものだ。シェイクスピアの「新作」が蔓延る世界で進む物語もある。

あるロボットの話だ。彼の名前は『エーファ』。自動物語生成マシンの彼は、入力されたお題に沿って物語を生み出す。初めはヘンテコな話ばかり生んでいた彼の精度は徐々に上がっていく。

やがて本屋は全て潰えた。人間は誰しも、欲した物語の設定をエーファに入力すれば手に入れられる。『創作』の価値は地に落ちた。

人々は互いの物語を見せ合うようになった。「俺の物語どう思う?」「ワタシのも素敵よ!」

すると『より優れた"設定"を生み出す』という新しい創作が復興した。文化は一周した。

AI美空ひばり』の精度は恐ろしかった。誰もが美空ひばりの新曲を作る世界。贋作ではない。そこにあるのは出来不出来の優劣のみである。きっと太宰治やミケランジェロの新作も蔓延るだろう。

我々はどこから来てどこへ行くのか。明日は明日の風が吹くのだろうか。

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

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